はじめに
北朝鮮における第2の愛国歌として知られる、《輝く祖国(빛나는 조국)》。 朝鮮中央テレビのクロージングや国家行事における祝砲発射、その他芸術公演等様々な場面で使用されているが、これまでに多数の歌詞の改作を受けていることが知られている。 2024年、統一政策の放棄に伴って2節の歌詞の一部「三千里 錦繍江山 資源も溢れ(삼천리 금수강산 자원도 넘치고)」が「母なる我が祖国 資源も溢れ(어머니 우리 조국 자원도 넘치고)」へと変更されたことは記憶に新しい。
《輝く祖国》の歌詞史については山根俊郎氏が、1955年発行の歌集《李冕相作曲集(1)》に掲載された版を確認できる最古の資料として紹介している。 また、この版の作詞者が従来知られていたパク・セヨン(박세영, 朴世永)ではなくホン・チョルミン(홍철민, 洪哲民1)と記されていることを指摘するとともに、歌詞をA型・B型・C型の3つに類型し、遅くとも1958年には作詞者と歌詞が変更され、1970年代に再びA型に近い形へ改められた可能性を示した。2 また、Levitate_氏は、1948年4月に制作された記録映画《8.15》での演奏版が現在と同一の旋律であるとし、歌詞については「1960年代の以前の歌詞は見つかっていない」としていた。3
今回、筆者は韓国国立中央図書館が公開している米軍鹵獲文書群及び中国側資料から、《輝く祖国》の制定・発表に関する資料を確認することができた。 本稿ではこれらの資料を紹介しながら、《輝く祖国》の歌詞史の再整理を試みたい。
資料について
本稿では主に以下の資料を参照した。
米軍鹵獲文書群から
- 《朝ソ歌曲100曲集》 1949年5月5日 北朝鮮音楽同盟 発行
- 1947年6月29日付『民主朝鮮』と思われる新聞切抜4
- 《文化戦線》第1~5輯 北朝鮮文学芸術総同盟 発行
孔夫子古書網から
- 『朝鮮歌集 人民歌謡集』 1951年4月 延辺教育出版社瀋陽支社 発行
《輝く祖国》の制定・発表
1947年6月29日付『民主朝鮮』と思われる新聞切抜には次のような記述が見られる。
下段の記事本文の後半部分に
이번 이와함께 역시 북조선문학동맹 홍순철작사 북조선음악동맹 이면상 작곡으로 『빛나는조국』도 제정발표하였다 訳: 今回これに加え、やはり北朝鮮文学同盟 ホン・スンチョル(筆者注: 홍순철, 洪淳哲5)作詞 北朝鮮音楽同盟 イ・ミョンサン作曲で『輝く祖国』も制定発表した。
とあり、《輝く祖国》は1947年6月29日に国歌である《愛国歌》と同時に制定・発表されたことが確認できる。 北朝鮮当局は《輝く祖国》について、1947年創作、パク・セヨン作詞、リ・ミョンサン作曲としている6ため、創作年と作曲者は一致する一方、作詞者については相違が見られる。 また、先行研究で紹介されたホン・チョルミンという表記とも異なっている。
| 年月日 | 1947/06/29 | 1955 | 1958/08/25 |
|---|---|---|---|
| 出典 | 民主朝鮮(?) | 《李冕相作曲集(1)》 | 《輝く祖国》 |
| 作詞者 | ホン・スンチョル | ホン・チョルミン | パク・セヨン |
初期歌詞資料
今回発見した《朝ソ歌曲100曲集》(1949年発行)と『朝鮮歌集 人民歌謡集』(1951年)に掲載されている《輝く祖国》(以降それぞれ1949年版、1951年版)は、分かち書き等の細かな差異を除けば山根俊郎氏が確認した1955年版(ホン・チョルミン作詞、リ・ミョンサン作曲)と同一のものであった。 なお《朝ソ歌曲100曲集》に関しては、和田春樹が『北朝鮮―遊撃隊国家の現在』(1998年、岩波書店)で言及しているが、同資料に掲載されている曲のみに注目しており、《輝く祖国》の歌詞の差異に関しては言及していなかった。
1949年版
-
반만년 력사위에 문화도 빛나고 창조에 불타는뜻 저하늘을 뚫는다 자유의 호흡속에 피끓는 인민들아 찬란한 우리조국 길이길이 떨치세 조선아 조선아 무궁무궁 만만세
-
삼천리 새터전에 자원도 넘치고 건설에 끓는기세 이강토를 흔든다 행복의 나래펴는 삼천만 겨레들아 부강한 민주조선 길이길이 빛내세 조선아 조선아 무궁무궁 만만세


1951年版
-
…7년 력사 우에 문화도 빛나고 창…에 불타는 뜻 저 하늘을 뚫는다 자…의 호흡속에 피끓는 인민들아 찬…한 우리 조국 길이길이 떨치세 조선… 조선아 무궁무궁 만만세
-
삼천리 새터전에 자원도 넘치고 건설에 끓는기세 이강토를 흔든다 행복의 나려8펴는 삼천만 겨레들아 부강한 민주조선 길이길이 빛내세 조선아 조선아 무궁무궁 만만세

1955年版
-
반만년 력사우에 문화도 빛나고 창조에 불타는뜻 저하늘을 뚫는다 자유의 호흡속에 피끓는 인민들아 찬란한 우리조국 길이길이 떨치세 조선아 조선아 무궁무궁 만만세
-
삼천리 새터전에 전원도 넘치고 건설에 끓는기세 이강토를 흔든다 행복의 나래펴는 삼천만 겨레들아 부강한 민주조선 길이길이 빛내세 조선아 조선아 무궁무궁 만만세
歌詞の比較
山根俊郎氏は先行研究において歌い出しとサビの歌詞に注目し、それぞれA型、B型、C型の3つに分類した(下図参照)。

本稿ではこの分類をもとに、A型のうちホン・チョルミンのものをA1型、パク・セヨンのものをA2型に細分して整理する。なお、ホン・スンチョルのものについては歌詞が不明のため、「?型」とした。 今回、1955年《李冕相作曲集(1)》と概ね同一の版本が1949年と1951年の歌集にも確認されたことにより、類型A1は1949年まで遡ることが明らかになった。
| 年月日 | 1947/06/29 | 1949/05/05 | 1951/04 | 1955 | 1958/08/25 | 1968/08/10 | 1971/04/15 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 出典 | 民主朝鮮(?) | 《朝ソ歌曲100曲集》 | 『人民歌謡集』 | 《李冕相作曲集(1)》 | 《輝く祖国》 | 《大衆歌謡集》 | 《歌集 朝鮮の歌》 |
| 型 | ? | A1 | A1 | A1 | B | C | A2 |

最古の版本の手がかり
最古の版本と思われるホン・スンチョル作詞版《輝く祖国》の歌詞は未だ見つかっていない。筆者は《文化戦線 第5輯》(1947年8月1日発行)の近刊予告欄に《北朝鮮人民委員会 愛国歌 附、빛나는祖国》という掲載(上図)を発見し、この発行物に最古の版本が掲載されているのではないかと推測する。
しかし、資料そのもの自体が未発見であり、これがどのような形態で刊行されたのかも不明である。
考察
今回の新資料の発見により、従来知られていた創作年度を裏付ける資料を確認するとともに、創作時に近いと思われる歌詞に一歩近づくことができた。 またこれによって、山根俊郎氏の先行研究で明らかになった作詞者の食い違いに加え、ホン・スンチョル作詞という以前とも異なる作詞者の版本も存在しているのではないかということも判明した。 《輝く祖国》(1958年)ではすでに朴世永の名前で掲載されているため、少なくとも1949年から1958年まではA1型の歌詞が使用されていたと思われる。
今後の課題
ホン・スンチョル及びA1型作詞者のホン・チョルミン両名について、詳細が不明である。 山根俊郎氏はホン・チョルミンについて、1949年3月の雑誌『朝ソ文化』巻頭に「3.1運動30周年を迎えて —洪哲民9」という題で寄稿しており、民族主義者で1955年以降に粛清されたのではないかとしているが、それ以上の情報は確認できていないようである。 ホン・スンチョルについては筆者が調査している中で幾つか断片的な情報を得ることができたが、詳細については稿を改めて論述したい。
Footnotes
-
山根俊郎氏はあくまで「音訳」としてこの漢字表記をとっていたが、筆者は中国発行の『朝鮮之歌』(1953年、李激濤 編・訳、教育書店出版)掲載の『斯大林大元帥讚揚歌(スターリン大元帥讃揚歌)』の作詞欄に同じ「洪哲民」表記を発見し、その表記に従った。なおこの曲に関しては、歌詞の内容と作詞者・作曲者から《쓰딸린대원수의 노래(スターリン大元帥の歌)》ではないかと思われる。 ↩
-
むくげの会 『むくげ通信 324号』 山根俊郎「歌・ノレ・노래189 北朝鮮の第二の愛国歌『輝く祖国』(1)」, 『むくげ通信 325号』 山根俊郎「歌・ノレ・노래189 北朝鮮の第二の愛国歌『輝く祖国』(2)」 ↩
-
DPRK Bits Levitate_ 「수정된 노래들 2 - 《빛나는 조국》」 https://levitate-qian.github.io/nk/posts/songs_with_lyric_changes/songs_with_lyric_changes_2/ ↩
-
原資料に青いペンで「6.29 5. 민」と記されており、民主朝鮮の5面に掲載されたのではないかと思われるが、筆者は当時の朝鮮における新聞についてよく把握してはいないため、確証はない。 ↩
-
《文化戦線 第2輯》(1946年11月20日発行)に掲載された『北朝鮮文学芸術総同盟 委員名簿』で「洪淳哲」という表記を確認できる。 ↩
-
YouTube『【朝鮮の声放送】「愛国歌」と作家のパク・セヨンさん』 (2021/09/03放送) https://youtu.be/hzt8Fk6y6Wo?si=QODZHg-qf578X7BG ↩
-
「…」となっている箇所は、書影画像において隠れており、読み取れない部分である。 ↩
-
原文ママ。나래(翼)の誤植かと思われる。 ↩
-
脚注2の資料参照。ここにおける「洪哲民」表記は、(筆者が原資料を確認できず、)原資料にて漢字表記なのかハングル表記なのか不明であるため、この漢字表記が正しいのか定かではない。 ↩